五井野正 博士ファン倶楽部  浮世絵と印象派を通して学ぶ自然世界

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THE LAST STATION・終着駅・トルストイ最後の旅             トルスト主義者についての一考察


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( トルストイの夫人・ソフィアは悪妻とされているが、トルストイがロシア正教から破門された時に、抗議文を送っている。)

◆ 今回、大正時代に『新しき村』の社会運動を始めた武者小路実篤や北海道で農地解放などの運動をした有島武郎などの白樺派の人々が心棒していたトルストイについての映画について調べましたら上記の『THE LAST STATION・終着駅・トルストイ最後の旅』という映画がありました。

◆ この作品は、トルストイの最後の晩年を描いたものですが、主にトルストイトルストイ主義者と対立して敵対していた最大の相手が、ロシア正教やロシアの官憲・秘密警察と言うよりも、実はもっともトルストイの身近にいた、トルストイが愛していた妻ソフィア・トルストイが実は最大の敵であったというお話なのです。

◆ このことを簡単に述べるならば、新約聖書のマルコによる福音書の中でナザレのイエスが、『預言者が敬われないのは、自分の故郷、親戚や家族の間だけである。』と述べていることそのままなのです。現にトルストイの妻ソフィア・トルストイは、夫の世界的な世間の評価とは裏腹に、トルストイが聖者や偉人であるとはこれっぽっちを思わなかったし、最後まで愛する自分の夫であったのです。

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(上記は、トルストイとその妻のソフィア・トルストイ)

◆ そしてその愛する夫とその夫とともに作り上げた知的財産であるトルストイの描いた文学作品の版権を13人もの子供のために遺産として残すために、トルストイ主義者の集まりであるトルストイ協会の人たちと戦ったのが妻ソフィア・トルストイの現実的な生き方であったような気がします。

(トルストイ主義者は、社会的制度的な存在であるロシア正教には加入しない無教会主義であり、どちらかと言うと歴史的伝統的な教会ではなく、聖書に書かれているナザレのイエスの教えに従うと言うプロテスタントの教えに近いような気がします。それ故にロシア正教から破門されていました。また、ナザレのイエスの教えを実践していたので、トルストイ自らが土地と言う富を捨てる、富を布施することを考えていたので、夫人にはそのような考え方は理解できなかった。それは貴族であり伯爵家である人間が、農奴になることを意味していたので理解できなかったのです。それにトルストイは、貴族なのに貴族の服を着ず、いつも羊飼いや農民の服を着ていたのです。)

◆ しかし、トルストイは、そのような妻の現実的な価値観とは別に、インドのバラモン階級の人々が社会的役割を終えて晩年にすべてを捨てて出家して聖仙になることを理想としたように、またナザレのイエスが生きた生き方を理想とする現世的な所有を全て放棄して、天に宝を摘む生き方をしたかったような気がします。でも身近な最愛の妻は、そのような精神主義の教えを一切理解しない普通の人でした。そして自分の夫をナザレのイエスのようなキリストや預言者のように見るトルストイ協会のトルストイ主義者達は、頭がおかしいと思っていました。

◆ トルストイはロシアでは農奴を使って土地を耕す地主であり、貴族階級であったわけですが、ナザレのイエスの教えによれば、マタイによる福音書の中で述べられているように『金持ちが天国に入るのは、駱駝(らくだ)が針の穴を通るより難しい。』となり、トルストイがキリスト教のナザレのイエスが示した道や生き方を求道するのであれば、地主で農奴がいて物質的にはとても豊かで、かつ貴族階級で文学によって世界的な地位と名誉を持つトルストイは、ナザレのイエスの示した道とは正反対の立場にいるわけです。

◆ そして愛する妻は、そのような世間でいう処の精神主義的な天に宝を積もうとするトルストイ主義者達に対してはまったく理解がなく、反対に自分たちの資産や財産を奪う盗賊たちに過ぎず、彼らはみんな頭がおかしいと見ていたのです。でもそのような精神主義と物質主義の価値観の対立の構図や男女関係・人間関係は、現在のこの日本の中でも多かれ少なかれ、巷に満ち溢れているような気がします。それは今日であれば、ある日突然、いきなり会社の社長である夫がトルストイ主義者となって、家や会社の資産を売却してしまったら、その妻や子供は衝撃を受けることでしょうし、頭がおかしくなった、宗教団体に洗脳されてしまったと思うでしょう。

◆ そのようなことで、この映画の背景には、上記のような精神的なトルストイと現実的な妻のソフィア・トルストイの価値観の対立があって、さらにトルストイのそのような精神主義をロシアの社会に広めるためにトルストイ協会があり、その協会は、トルストイ主義を実践する男女の集まりで、農業を中心としたコミューンを作っていたのです。そしてトルストイの教えを世界に広めるために、トルストイ文学の版権をトルストイから譲り受けようとしていたのですが、そのことを妻のソフィア・トルストイがかぎつけ、トルストイ協会とトルストイの妻ソフィアは版権を巡って対立をしていたのです。

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(上記は、トルストイとトルストイを心棒するトルストイ協会から秘書として派遣された青年ワレンチン)

◆ そんな中に、トルストイの秘書としてトルストイ協会に雇われたのが上記左側の若者であるワレンチンなのです。このトルストイの秘書としてトルストイ協会から派遣された青年は、トルストイ協会にとって最大の敵であるトルストイ夫人の言動の観察・報告することであり、スパイのような役割を担わされて派遣されてくるのです。

◆ しかしワレンチンは、ワレンチンで、秘書面接の時には、自分は禁欲主義で独身主義者であると答えながら、同じトルストイ主義者達の農業コミューンの中にいたマーシャ(マリア)と言う若い女性と恋愛関係となってしまい、それをトルストイ夫人に知られたことから、愛の価値を中心とする夫人の価値観に共感して、夫人側からの依頼も受けることとなってしまうのです。

◆ そしてその結果、ワレンチンは、トルストイ協会側とトルストイ夫人側の間に挟まれた微妙な立場となってしまったのです。或る意味では、対立する価値観の関係の中での緩和・調亭役となってしまったのですが・・・・そんな中で、トルストイ自身は、夫人の言動に耐えられなくなって家出を決行してしまうのですが、或る意味でこのトルストイの晩年の逸話の物語とは、世間的なものとそこから離れている出世間的なものの狭間の世界で起きているテーマでもあり、このようなテーマは多かれ少なかれ、多くの人々の中にだれもが縮図としてあるものと感じられるものですが、残念なことにこの映画の世界ではその解答は示されていないのです。

( 映画の中では、家出をして隠遁しょうとしたけれども、内心ではソフィアとの関係は完全に断ち切れず、トルストイと夫人の関係は、長年連れ添ってきた夫婦の歴史があり、最後はトルストイは、娘で父の協力者で、トルストイ主義の理解者でもあったアレクサンドラ嬢や映画ではソフィア夫人や複数の身近な知人達に看取られて旅立っています。現実は少し微妙かも。)

◆ でもなんとなく、トルストイ主義者とは、バラモン教や原始キリスト教の生き方をする人々のように思えます。でもこの日本の中で経済的に豊かで社会的地位や権力のある人が、ある日突然トルストイ主義者になってしまって、全てを足長おじさんに寄付すると言って、家庭内で妻と揉め事を起こして、突然に夫が家出をして新幹線や飛行機に乗ってどこかへ行ってしまったら・・・と考えるならばトルストイ主義者とは、具体的にどのようなことを実行する人々であるのかよくわかってきます。

◆ そしてそのような生き方をロシアの社会に広めようとしたトルストイ主義者とは、ロシア正教から見れば、大変に異端的な存在のように感じられてくるのです。そしてそのような人々が集まって、農業を中心としたコミューンを形成して生活するというライフスタイルをテーマとするのがトルストイ主義者であって、そこには伝統的なロシア正教のような宗教的組織はありませんし、伝統的な儀礼や儀式もなく、シンプルなものなのです。そしてこのようなトルストイを通してのキリスト教のシンプルな形態が、トルストイの文学を通して白樺派の人々に流れたのだと思います。

◆ そして、これは個人的見解になりますが、地主で貴族階級であったトルストイが示したトルストイ主義は、同じ19世紀のロシアの農奴社会の中で、トルストイと同じように膨大な土地を所有して、農奴を支配していたロシアの貴族階級の人々にとっては大きな衝撃を与えたのだと思います。

◆ それはロシアにおける農奴解放の社会運動が、『デカブリストの乱』と言われるように農奴解放をロシアで始めに行おうとした社会階級とは、その農奴によって生活をしていた貴族階級の人々であったのであり、彼らは、彼ら自身の在り方を、自ら否定する在り方をロシアの農奴社会の中で行い、その結果としてシベリアへの流刑となってしまったのです。

◆ つまり、貴族階級が貴族階級の在り方を否定する生き方、このデカブリストの在り方が、どうしてもトルストイの中に魂の流れとしてあるような気がしてなりません。農奴制の上に立っている貴族階級の中に、その農奴制を否定する貴族階級の人々が出現してくるのです。

◆ このデカブリストの乱を行った貴族階級が貴族階級の在り方を否定して、19世紀・ロシアの専制政治と農奴制を廃止して、ロシアの社会改革を貴族階級自らの自己犠牲で行なおうとした、ロシアにおけるデカブリスト達の生き方や精神は、その後のロシアの雑階級知識人達に大きな影響を与えて、それがロシア文学の精神として根底に奥深にくあるのです。そしてそれがトルストイやトルストイ主義者達の中に流れているような気がしてなりません。 そしてトルストイの代表作である『戦争と平和』が生まれた背景には、この『デカブリストの乱』の事件が大きな動機となっているようなのです。


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◆ 上記書籍には、おもしろいことに、映画の中で父・トルストイと行動を共にして、共に隠遁に従い、トルストイ主義者達を援助してきたトルストイの三女であるアレクサンドラ嬢と会見して、その最後の旅の経緯を聞いてきた人でもある『小西増太郎』という人が書いてる本なのです。この人は、驚いたことに、あの時代にモスクワでトルストイと一緒に老子道徳経のロシア語の翻訳をトルストイと一緒にしている人なのです。

◆ 小西増太郎氏はあの時代のロシアを訪れてトルストイと会見できた日本人でもあり、直接ヤースナヤ・ポリャーナを訪れて、トルストイ主義者達が当時営んでいた農業村に入り、そこでの様子を見聞することができた日本人であり、この本の中で当時の村の様子も描かれています。また三女であるアレクサンドラ嬢は、直接日本を訪れており、トルストイと日本の関係はとても深く、白樺派の人々が影響を受けたのもよくわかるような気がします。


◆ トルストイの妻ソフィアに宛てた書簡
( 隠遁行・トルストイ最後の旅の十四カ月前に書かれていたもの・上記書籍㌻246より一部引用)

 
ソフィア殿 1897年7月8日

 私の信仰と実生活とが調和し手いないことは、以前から私を苦しめていたが、子供たちの生涯にその習慣をにわかに変えさせるのが気の毒であったから、自分一人が家出するのが一番良策だと思った。

 しかし、これを実行することは容易ではない。子供たちが年少の時には父たる私の在宅が必要であろうが、今や彼らは成人して私の指導がいらなくなった。もとより私の家出は其許を落胆させるだろうと思うが、もう16年も考えていることでもあるし、それに年もとってきてこの上躊躇することを容さない。これは私が隠遁を断行する第一の理由である。

 第二の理由は、私の在宅を必要としないのに、これをつづけているのは無益であることだ。インドでは六十歳を超えた老人は山林に入って神に仕えて世を去るそうだ。しかるに私はもう七十歳を超えた。だからどこか、静かなところに行って神に仕える時になっているのである。順序から言えば、この趣を其許らに打ち明けてから隠遁すべきだろうが、前以てこれを発表するにおいてはさまざまな議論も起ころうし、在宅の勧告もあろう。

 それを振り切って出かけるほどの勇気が私にはありそうもないので、其許らに予告せずして隠遁するから、これを赦してくれ。妻よ、喜んで私の意志通りに行うことを赦してくれ。また家出した以上、私を探さないでくれ。もし私に疎略の過失があったら咎めないでくれ。

 妻よ、其許を愛さないから私が隠遁したと思うな。私の思想と其許の考えとは根本的に矛盾していて、これを調和することはとてもできない。しかし、私の信ずるところを無理にお前に信じさせ、了解しないことを無理に了解させることはとてもできるものではない。  

 其許に対する私の愛情は同棲三十五年の厚意を謝すると共に、いつまでも変わることはないけれども、一緒に隠棲することはできない。結婚後、家族が殖えつつあった時の其許の活動振り、世話振りは私の満足するところであるのみならず、母として世の模倣であった。ただ最近の五年間の私の思想、主義に激変があったため、互いの了解を欠いていたいたが、これを私だけの罪とするのはどうであろう。けれども其許が私の所信に従わないからと言って、これを責めるものではない。終わりに、心の底から永い間の同棲を感謝する。                                                                             
                                         愛するレフ・トルストイ                     

 また上記書籍によると、トルストイの文学作品の版権は、トルストイの遺言により、一切の版権を謙譲された末女・アレクサンドラ嬢は、それらを売却してヤースナヤの母や兄姉の所有地を買収して、農民に贈与した。また、伯爵邸の敷地内にトルストイの博物館、トルストイ記念学校、病院の建設も行ったと言う。

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(トルストイの居宅があるヤースナヤ・ポリャーナの白樺の森 映画の中では、ロシアの自然風景が撮影されています。)
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水と木の精霊の守り人

Author:水と木の精霊の守り人
 浮世絵の中に描かれている宗教・歴史・信仰・民俗学・古典などに深い関心があり、『精霊の守り人』のファンです。また、浮世絵の影響を受けたフランス印象派やジャポニスムに関心を持っています。
( Impressionnistesとは、正しい翻訳では、印象派と訳すのではなく、フランスの浮世絵師と訳すのが正しい翻訳であるそうです )
特に浮世絵の研究者でもあり、ロシア国立芸術アカデミー名誉会員の五井野正博士のファンの一人です。博士の講演の中で、ジャポニスムとは、日本趣味ではなく正しくは、~イズム(ism)とはその人の生き方・精神を顕わして日本趣味ではなく、日本主義と訳すのが正しい翻訳であるそうです。また内部被曝問題に関心があります。日本GAP・アダムスキーやオムネク・オネクに関心を持っています。

◆ このファンサイトの主旨
 
 このファンサイトは、ロシア国立芸術アカデミー名誉会員の五井野正博士の個人的・非公式非公認ファンサイトです。これまで博士の芸術論講座や講演会に筆者が参加して、個人的に主観的に思ったこと考えたことが書かれています。ですから客観的な公式・公認の情報ではありません。

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