五井野正 博士ファン倶楽部  浮世絵と印象派を通して学ぶ自然世界

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ロシア映画『ノスタルジア』アンドレイ・タルコフスキー                               キリスト教社会における道教的な自然回帰の映画

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 『 どこに生きる? 現実にも生きず、想像にも生きぬのなら。天地と新しい契約を結び、太陽が夜かがやき、8月に雪を降らせるのか? 大は滅び去り、小が存続する。世界は再び一体となるべきだ。ばらばらになりすぎた。自然を見れば分かる事だ。生命は単純なのだ。元初に戻ろう。道をまちがえた所に戻ろう。生命の始まりに!水を汚さぬ所まで!何という世界なんだ。狂人が恥を知れと叫ばねばならぬとは!!』 

 『 健全な人よ。何があなたの健全さなのだ。人類は今崖っぷちを見つめている。転落寸前の崖っぷちを。自由に何の意味があろう。あなた方が我々を正視する心を持たず、我々と共に食べ、共に飲み、共に視る心を持たないなら。健全な人々がこの世を動かし、そして今破局の淵に来たのだ。人よ!聞いてくれ。君の中の水よ! 火よ!灰よ! 灰の中の骨よ! 骨よ! 灰よ! 』 
                        (ノスタルジアにおけるドメニコの言葉より)

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(上記は、1本のロウソクの燈明を持つドミニコの姿。彼は、自分の出来なかったことをゴルチャコフ託し、上記の言葉を広場で集まった人々や健全な人々に訴えかけて、焼身自殺をしてしまう。そして一人、ゴルチャコフだけが、彼の言葉を信じて、彼の魂の法灯でもある燈明をともして、温泉の広場を歩こうとする・・・・・)

◆ 前回からの続きとなりますが、どうして帰国すると奴隷となるとわかりながら、イタリアに亡命した音楽家のサスノフスキーは、それでもロシアに帰国して、そして自殺してしまうのですが、このサスノフスキーがどうして奴隷とわかりながらロシアに帰国したのか、その理由を調べるためにロシアの詩人でもあるゴルチャコフはイタリアに調査に来たのですが、そのゴルチャコフ自身もロシアへのノスタルジアそしてロシアの自然への望郷に駆られることになってゆくのです。

◆ そんな時に、ゴルチャコフは、イタリアの古い教会に住む元数学の教師であったドメニコという人物と出会うことになります。ドメニコは、数学の先生でしたが、ある日突然神がかりとなり、世界が滅びると述べて、自らの家族を守るために、七年間自宅に閉じこめたと言う経歴を持つ狂信的な、宗教的な、そして現実社会との軋轢の中で精神の病んでいる人なのです。彼の家族は、七年後に警察によって解放されるのですが、その時に平和な村の様子を見て、彼の子供は、『パパ、これが世界の終わりなの?』と述べている姿が印象に残ります。

◆ ゴルチャコフは、イタリアにはそのような神の啓示を受けておかしくなってしまう人が多いと通訳の女性エウジェニアから聞くのですが、エウジェニアの意向に反してゴルチャコフは、そのドメニコという男性とコンタクトを取って会話をしょうとします。そしてそのドメニコから、世界の崩壊からこの世界を救うためにあることを実行してほしいと頼まれるのです。

◆ それは普通の常識的な人々が考えるのであれば大変おかしな事で、そして非合理的なことになるのですが、それは、一本のロウソクに火をつけて、その灯明を持って、近くに広い敷地のある温泉があるのですが、その温泉を灯明を持って渡ってほしいというのです。これまで自分で実行しょうとしたけれども、周囲から溺死を警戒されて止められているので、自分の代わりに実行してほしいと頼まれるのです。

◆ ゴルチャコフは、初めは断りましたが、最後はドメニコにロウソクを渡されてしまい約束してしまうことになりましたが、ゴルチャコフ自身には、それを行う気持ちはなかったのです。それに持病である心臓疾患があったので、すぐロシアに帰りたい気持ちでした。サスノフスキーと同様にノスタルジアによって、ゴルチャコフ自身もイタリアで不適応な精神状態に追い込まれて、持病が悪化していたのです。

◆ そんな時、ローマから通訳の女性より報告があり、ローマの広場でドメニコを中心に仲間が集まって集会を開いているという話が入ってくるのです。そしてそのドメニコからメッセージがあって、先日依頼してあったことは行ってくれたのかどうかの確認の話が出たのです。ゴルチャコフは、電話では指示どおり行ったと話を通訳の女性に伝えましたが、実は行っていませんでした。それでロシアへ戻る状態であったのですが、急遽すぐに例の指示された温泉施設のある村に戻ることにしたのです。

◆ そしてローマでは多くの通行人の前にドメニコが青銅の馬の上に乗って演説を始めます。冒頭に書いた内容はその時にドメニコが聴衆に向かって叫んだ演説の内容なのです。簡単な言葉によって書かれていますが、それは次のようなことかもしれません。この私たちの生活する現代の文明社会がこのままでは破局の淵に立っている。私たちはそのことに気付いて、どこで間違ってしまたのか、その間違ってしまった始まりまで戻らなければならない。

◆ それは自然の水を汚してしまう文明の前まで戻らなければならないと述べているのです。そしてそのことを聞く人々の頭ではなくて、君の中の、水よ! 火よ! 灰よ! 灰の中の骨よ!と述べてその人の自然な五感である生命の内なる五行の世界に、上記の言葉で訴えているのです。

◆ 私はこの言葉を聞いた時に、これは映画と言う表現を使っているけれども、それはこれまでの文明のあり方のベクトルの方向を戻すことを述べているのだなーと思いました。そして戻さなければ破滅してしまうということを表向きに、映画の中では精神的に異常をきたしたドメニコという人に言わせているのです。そして健全な人が今日の世界を作ってしまったと・・・・だから間違った所まで戻らなければならないと。

◆ そしてノスタルジアとは、望郷の念による精神疾患ではなく、人間が自然の世界から分離した所から始まる過ちであって人間と自然は分離分裂しているものではないということを、ドメニコが代弁しているように聞こえてきます。それはある意味で西洋の文明社会の中で、自然の世界に回帰することが必要であるということを述べているのです。

◆ しかし、このようなことを述べる映画が西洋の文明社会にあるでしょうか。そして、映画の中では自然回帰を訴える精神病疾患とされるドメニコの主張は誰も受け入れてくれないのです。そしてドメニコは最後に焼身自殺をします。そしてそのドメニコの魂をゴルチャコフが灯明としてゆくのです。つまり、誰一人、ドメニコの非合理で非科学的な言葉を信じて実行する人がいない中をゴルチャコフ一人のみが、ドメニコの魂の言葉を受けて、たった一人で、それを実行に移すのです。

◆ そしてそのドメニコの依頼を受けたゴルチュコフは、一本のロウソクに火を灯して、灯明として清掃のためにお湯が抜いてある温泉地で、その灯明が消えないように、温泉の端から端までを一本のロウソクの火を灯しながら何度も渡ろうとします。そしてこのロウソクの火とは、ドメニコの魂でもあり、ドメニコの魂を引き継ぐことを顕しているようにも見えるのです。そしてやっと端から端まで心臓発作を抑えながら渡りきったゴルチャコフも最後は息絶えて倒れてしまいます。

◆ 映画の中では、このゴルチャコフが一本のロウソクに火を灯して灯明として、何回も温泉の端から端まで渡り歩く長い緊張したシーンが、この映画の中の隠された奥深いテーマのように感じられます。と言いますのは、実はこの世間から無視誹謗否定されながらも、ドメニコの善なる魂の法灯である灯明を一人引き継いで歩くゴルチャコフの姿の中に、タルコフスキーは、ナザレのイエスの姿を反映させているからなのです。

◆ つまり、ノスタルジアという感情の根源には何かあるのかというと、それはロシアの自然や大地の中に染みこんでいるロシア正教の精神があるということを、道教的世界を表現しながらも、この自然の世界に回帰してゆくという業を人々に示す人が実は『ナザレのイエス』となっているのです。或いはゴルチャコフの姿の中にナザレのイエスを投影させているのです。これには実は映画的な証拠がありますので、次回述べたいと思います。

◆ そして冒頭に述べましたロシアのふる里の風景とは、その一番最初と最後の場面に映し出される映像なのです。私は、映画雑誌ぴあに掲載されているこの映像を見て、この映画の監督はロシア人であるけれども、東洋的な道教やタオの思想の影響を受けている人であるとすぐ思いました。そしてこれはロシア版のふる里村の思想の映画化ではないかとその時に漠然と思ったのです。

◆ それは事実、惑星ソラリスやサクリファイスを撮影したアンドレイ・タルコフスキーは、ノスタルジアを含めて、必ずその映画の中で、日本と関係したエピソードが物語られています。このノスタルジアでも、日本のお経のような音楽を愛好している将軍が出てきます。これは本当にロシアにおける現代のジャポニスムであるのです。そしてこのジャポニスムの預言者的映画はヨーロッパでも流れたのですから・・・・

ノスタルジア
http://www.zaziefilms.com/nostalghia/


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水と木の精霊の守り人

Author:水と木の精霊の守り人
 浮世絵の中に描かれている宗教・歴史・信仰・民俗学・古典などに深い関心があり、『精霊の守り人』のファンです。また、浮世絵の影響を受けたフランス印象派やジャポニスムに関心を持っています。
( Impressionnistesとは、正しい翻訳では、印象派と訳すのではなく、フランスの浮世絵師と訳すのが正しい翻訳であるそうです )
特に浮世絵の研究者でもあり、ロシア国立芸術アカデミー名誉会員の五井野正博士のファンの一人です。博士の講演の中で、ジャポニスムとは、日本趣味ではなく正しくは、~イズム(ism)とはその人の生き方・精神を顕わして日本趣味ではなく、日本主義と訳すのが正しい翻訳であるそうです。また内部被曝問題に関心があります。日本GAP・アダムスキーやオムネク・オネクに関心を持っています。

◆ このファンサイトの主旨
 
 このファンサイトは、ロシア国立芸術アカデミー名誉会員の五井野正博士の個人的・非公式非公認ファンサイトです。これまで博士の芸術論講座や講演会に筆者が参加して、個人的に主観的に思ったこと考えたことが書かれています。ですから客観的な公式・公認の情報ではありません。

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